手仕事の職人巡り「越前和紙」編

越前和紙

 数ある和紙産地の中でも、特に深い歴史と大きな規模を誇る越前和紙。約1500年前、川上御前が今立五箇の村人たちに紙漉きを伝えたのが始まりとされています。奈良時代の正倉院文書の中にも登場し、公家や武家の公文書やお札、浮世絵や日本画などの芸術作品に使われるなど、歴史の折々にその名が刻まれています。そして現在も、種類の豊富さと質の高さで全国一を誇ります。
女神が伝えたといわれる紙漉きの技。ここ今立五箇の地では、原料などの準備作業は男性の仕事で紙漉きは女性の仕事とされてきました。そこで今回は、女性職人3人に、越前和紙への想いを伺いました。

職人とて伝道者として

卯立の工芸館 村田 菜穂

 卯立の工芸館は、紙漉きを生業としていた民家を移築した建物で、紙漉き工程の見学や体験もできる施設です。村田菜穂さんはここで、訪れた人に越前和紙について案内をしながら、和紙職人として紙を漉いています。
京都で生まれ育ち、短大卒業後、今立五箇の製紙会社に就職してそのまま結婚・出産。この道に入り20年、伝統工芸士にも認定されました。勤めて最初の頃はひたすら紙を漉く毎日でしたが、さまざまな事情で材料の準備から乾燥や検品まで和紙のすべての工程を経験することになり、これが現在の仕事に活かされているといいます。
観光客に案内をしながら職人としても紙を漉く生活に、最初は戸惑いもあったと菜穂さん。しかし今は越前和紙の伝統を後世に伝えるために、「外の人に歴史や現状を伝えること」と「技術を伝承すること」の両方とも関われる立場に、大きなやりがいを感じています。「和紙ってすごいね」だけではなく、担い手が不足している現状や、原材料や道具を確保する厳しさも知ってもらいたい。そのためには、紙漉き体験で、楽しさや難しさを知ってもらうことも大切だと感じています。

 一方で週1回、地区の人間国宝の元に通い、技を磨くことも忘れない。物理的、心理的な制約の中、紙漉きに没頭することは難しいが、その中で、要求に応えつつ満足のいく1枚を追い求めています。
「いつまでもあるものはない。伝統も同じ」と、菜穂さん。長い歴史の中で、自分は『点』のような存在だと思っていたが、今は『線』にならなくては」と話します。縁あって県外からここに来たこと、そして紙漉きだけの世界から外の人と関わる仕事に就いたことも、運命かもしれないと感じています。

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よりクオリティの高い工芸氏を

株式会社五十嵐製紙 五十嵐 匡美

 五十嵐製紙は襖(ふすま)紙を主力に、現在は大判の創作和紙をはじめ、書道や絵画など美術工芸用の大型紙に力を入れています。匡美さんは一人娘の跡取り、22歳でこの道に入りました。
紙漉き場は、北側の窓からの採光がよいとされています。光が強すぎず、1日を通して光量の変化が少なく、表面のゴミも見つけやすいからです。ひんやりとした作業場で、1日中紙漉きの動作を繰り返すのは、忍耐のいる作業。「男性には耐えられないかもしれませんね」と、匡美さんは笑います。
2人以上で漉く大型の紙は、漉き舟の槽の中で桁を動かすのも、漉いた紙を伏せる時も、呼吸を合わせるのが難しい。紙の間に布を敷く際は、空気が入らないように細かな気配りが必要になります。だからこそ五箇では、「紙漉きは女性の仕事」といわれてきたのです。

 美術工芸用の和紙は近年、特に要求レベルが高くなっています。大きさ、厚みなど多種多様な注文が寄せられ、以前なら問題のなかった小さなゴミやわずかな表面のたわみも許されません。匡美さんは以前、こうした要望を疑問に思う時期もあったと言います。しかしアメリカで作品の制作現場を見て、和紙がいかに大切に扱われているかを知り考え方が変わりました。「今は、難しい注文ほど工夫して仕上げることが楽しい」と言います。
昔ながらの技術を守りながらも、そこにプラスアルファの工夫を加え、和紙の新しい分野を開拓します。変革の歴史には、いつも女神たちがいます。

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暮らしの中に和紙の風合い

栁瀨良三製紙所 栁瀨 京子

 越前和紙は、品質の良さと商品の豊富さでも知られています。それは和室の障子や襖といった伝統的な和紙製品だけでなく、暮らしの中のさまざまな分野で生きています。
栁瀨良三製紙所が得意とするのは、透明感のある薄紙楮紙。主に和菓子の包み紙や敷き紙などに使われています。無地の和紙に柄を漉き合わせドライヤーで乾燥させると、美しい模様を漉きこんだやわらかな和紙が完成します。2枚の和紙を手で漉いて張り合わせるのは京子さんはじめ3人の女性たちで、作業場では3人が息の合った連携作業をしながら、おしゃべりに花が咲きます。

 こうした薄紙は近年、さまざまな装飾を施され、テーブルクロスや日よけなどインテリアの分野にも使われています。京子さんは、夫・靖博さんと共に、「落水」という技法で美しい模様の落水紙を制作。漉きあげた生地に落水により金型の模様を写しとる和紙は、実習に訪れた昭和女子大の学生とコラボして開発したものです。現在は12種類で、今後も新たなバリエーションを展開予定。また、県内メーカーがこれを使ったトレーを発売しているが、他にも商品化できないかと模索しています。
和紙は「書く、描く」というステージから、実用プラス生活の潤いに舞台を広げつつあります。その最先端を行くのが越前和紙であり、切り開いているのは小さな和紙工場なのです。

 紙漉きが行われている「今立五箇」は、旧今立町岡本地区の、大滝・岩本・不老・新在家・定友の5カ村の総称。1500年の伝統が息づくこの地区は、「紙祖神・川上御前」を祀る岡太神社と大滝神社をはじめ、寺社や古い蔵、細い路地など、懐かしい町並みが残っています。歴史を肌で感じながら散策するには絶好の場所です。紙漉きが体験できる施設もあるので、気軽に訪れてみてください。

卯立の工芸館

住所:越前市新在家町9-21-2
電話:0778-43-7800
開館時間:9:30~17:00
※入館は16:30まで
※伝統工芸師の紙漉きは16:00まで
休館日:火曜(祝日は開館)、年末年始
入館料:大人200円、高校生以下無料
※特別展開催時 大人300円
(紙の文化博物館との共通)
HP:こちらから

紙の文化博物館

住所:越前市新在家町11-12
電話:0778-42-0016
開館時間:9:30~17:00
休館日:火曜(祝日は開館)、年末年始
入館料:大人200円、高校生以下無料
※特別展開催時 大人300円
(紙の文化博物館との共通)
HP:こちらから

パピルス館

住所:越前市新在家町8-44
電話:0778-42-1363
開館時間:9:00~16:00
(ショップは~16:30)
休館日:年末年始
入館料:無料
HP:こちらから

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